作者序
現在、台湾では多くの質の高い日本語教科書が販売されていますが、学習者が意欲を持って学習するのに、十分ではないと私たちは感じていました。それは、ミラーさんが自転車を持っているかどうかに学習者は興味を持つことはないからです。では、学習者が興味を持てる発話内容とは何でしょうか。それは、①自分や相手のことについて、②興味を持てることを、③自律的に、④理解できる語彙で、話せることだと私たちは考え、その方法を模索してきました。その方法の一つが、ペアワーク練習です。学習者個人のことについてペアワークで問答し合うという方法に着目し、実際に10年ほどそうした自作教材を作って自分たちの教育現場で使い続けてきました。学習者が笑いながらペアワークで練習している様子から、この方法は学習者の動機を高め、個別的な練習ができる点で効果があると自信を持ちました。こうした教材を、より一般的な内容に手直ししたのが、本書になります。
本書の練習では次のような利点があります。
1)二人一組での練習なので、多人数のクラスでも使用が可能です。しかし、その反面正しく会話できているかどうか、教師が把握できないため、適切なフィードバックが必要です。
2)話題も文型も提示されていますが、語彙の選択などは学習者が自律的にしなければならない練習が多く、より実践的な練習ができます。定型のパターンプラクティスなどでは特に問題のなかった学生でも、実はあまり実践的な会話ができない場合がありますが、そうした学生に指導が可能となります。
3)学習者同士の交流によって、学習の促進が期待できます。多くの練習で、学習者自身の個人的な状況について答える活動を取り入れています。母の日にプレゼントをしたかどうか、どんなプレゼントをしたかなど、日常の些細な事柄についての問答ですが、そうした情報の積み重ねは、学習者の交流を促進し、学習意欲を高めていくと考えられます。
本書は、多くの人の協力と忍耐によって完成いたしました。心より感謝いたします。
締め切りギリギリの2021年6月27日
中村直孝 林怡君