序論
「平成」から「令和」へ新時代を迎える日本。「平成」に代わる新しい元号の「令和」が2019年4月1日、発表された。「令和」の典拠は、1,200年余り前に編纂された日本最古の歌集『万葉集』である。日本の歴史は「日は昇り、日は沈む」を繰り返してきた。「平成」の時代は戦争がなかったということが、一番重要である。時代とはいつも旧時代から新時代へ大きく変わるものである。新時代に適応するのは難しいが、新世界・新秩序を築く者が必ず現れる。「令和」新時代の日本に託されるものは何だろうか。
戦後の日本は世界第二位の経済大国と失われた二十年を経験した後、明治維新、戦後復興に続く三度目の奇跡を創ろうとしている。国会議事堂の中央広間の四隅には、伊藤博文、板垣退助、大隈重信の銅像が三方に立っている。いずれも、近代日本の建国と発展に大きく貢献した偉人たちである。四隅に台座があり、そのうちの三つには銅像があるのに、一つだけ銅像がない台座がある。この空席はより偉大な政治家の登場を期待する証しである。三人は日本の歴史を創ったが、「新しい日本」を切り拓く四人目は誰になるのか。
「日はまた昇るか」が再び世界中で注目されている。海洋国家日本は21世紀のパワー・シフトとも呼ぶべき時代の大変革を経験しつつある。安倍晋三首相は2013年2月22日、米戦略国際問題研究所(CSIS)で「Japan is Back(日本は戻ってきた)」と題した政策スピーチを行ない、「日本は今も、これからも、二級国家にはならない」と冒頭で述べている。安倍政権は「戦後以来の大改革」で、「新しい日本」の夜明けを国民とともに迎えようとしている。安倍政権は日本をどのように生まれ変わらせるのか。本書の目的は、「強い日本を、取り戻す」という大戦略を究明することにある。
世界秩序は今、再構築の中にあるが、終わりなき外圧と危機がある。一部の人たちは現状維持、自分の既得権益にしがみつくことに熱心である。弱肉強食の国際社会では、現状維持は追い越されることを意味する。成長を諦めると、先進国脱落の道を辿るしかない。現在、大国たちは過去の栄光を取り戻すという強国の夢を合唱している。安倍政権は「夢や希望」を語りながら、「強い日本を、取り戻す」ことを目指している。「Make America Great Again(アメリカを再び偉大に)」はトランプ政権の旗である。「Keep America Great(アメリカをこれからも偉大に)」は再選への新スローガンである。「中華民族の偉大なる復興の実現」は「中国の夢」である。習近平国家主席は、2017年10月18日の中国共産党の第19回党大会の報告で「新時代」の到来とともに、「強国」の夢を繰り返し述べ、建国100年を迎える今世紀半ばまでに「富強・民主・文明・調和の美しい社会主義現代化強国」を築くという新しい目標を打ち出している。
英国のEU離脱、トランプ大統領の誕生、覇権争いをめぐる米中貿易戦争は、2016年からの世界の三大想定外として、各国に大きな衝撃を与え世界を揺るがしている。EU離脱派は、「偉大なる大英帝国の復活」への第一歩と言って、「歴史の針の巻き戻し」を行なおうとしている。英国がEU離脱を決めた「Brexit(ブレグジット)」はEUの将来に不安定性・不確実性をもたらす。アメリカ第一を掲げるトランプ大統領の誕生はまるでアメリカ版EU離脱である。トランプ大統領はアジア歴訪の後、2017年11月15日のテレビ演説の最後で、安倍首相の「Japan is Back(日本は戻ってきた)」を参考したように「America is Back(アメリカは戻ってきた)」と述べた。
これらの大国たちは、古き良き時代の輝きを偲んでおり、取り戻そうとしているが、歴史の針は巻き戻せるのか。ローマ帝国の興亡が示すように、一度失ってしまうと取り戻せないものがある。一方、日本の歴史を鑑みれば、外圧を活用して、やるべきことをやれば、日本は必ず明治維新、戦後復興に続く三度目の奇跡を創れるだろう。
時代が強者を生むのか、強者が新時代を創るのか。日本は失われた二十年から脱却するため、みんなが救世主を求めているところに、安倍首相が現れたのである。2012年12月16日の衆議院選挙で、日本国民は再度の政権交代を選択し、第二次安倍政権が誕生した。日本の政治において、一度首相の椅子を離れた者が復帰するのは珍しく、吉田茂首相以来64年ぶりである。新たな歴史が幕を開ける。
大変革時代には、国民に「夢や希望」を持たせて、明るい未来への大きな方向性を示す強いリーダーシップが求められている。リーダーは総合的に考え、状況を見極めた上で判断する。ただ、期待値が高ければ高いほど、失望する可能性も高くなる。2009年と2012年の二度の政権交代、2017年の希望の党の失速はそうした失敗の典型的な事例である。
旧来の自民党式の政権運営が破綻し、民主党的な政権運営も失敗した。2009年に登場した民主党政権は政治主導で改革を進めようとしたが、官僚叩きとポピュリズム(大衆迎合)のやり方では日本を再生させることはできなかったのである。2009年の政権交代はバラ色のイメージで捉えられていたが、財源を確保できなかった。国民の期待が幻滅・失望に変わったため、民主党政権は流れ星のように、瞬く間に天頂から転落した。そして民主党と維新の党が合流し、2016年3月27日に民進党が結成された。2018年5月7日、民進党、希望の党両党それぞれの一部議員が合流し、新党「国民民主党」(略称:国民党)を成立した。
政権奪還を果たした自民党の2012年版『マニフェスト』は、「日本を、取り戻す」をカバーのタイトルとして、「危機」というキーワードを前面に出している。その政策課題の優先順位は、「まず、復興。ふるさとを、取り戻す」、「Action 1 経済再生 経済を、取り戻す」、「Action 2 教育再生 教育を、取り戻す」、「Action 3 外交再生 外交を、取り戻す」、「Action 4 暮らしの再生 安心を、取り戻す」である。「経済、教育、外交、暮らし、4つの再生の向こうにあるもの」(p.15)は、「たくましく、やさしく、誇りある日本」(p.16)である。その集大成は安倍首相が目指す、強い日本という新しい国のかたちである。そのため、本書のサブタイトルは「強い日本を、取り戻す」を採用する。
安倍首相が「危機突破内閣」を謳い、2013年2月28日、衆議院本会議で行なった首相就任初の施政方針演説は、まさに明治政府が掲げた富国強兵の国策を彷彿とさせる内容で、実に名演説であった。「強い日本」、「世界のフロンティアへ羽ばたく」、「世界一を目指す気概」、「国益を守る『主張する外交』」と元気で、たくましい言葉が散りばめられていた。国政選挙の勝利と内閣支持率こそが政権運営の基盤であるため、各政策は「国民目線」、現場のリアルな声に根ざしたものとなった。安倍首相は日本経済を立て直し、「自信と誇りのもてる日本へ」と誓い、人気を得た。国民は強い日本の実現を期待し、その可能性を信じるからである。しかし、「強い日本を、取り戻す」道のりは、開国と明治維新、敗戦と戦後改革に匹敵するほどに険しい。
安倍政権はずっと経済再生を最優先課題に掲げて、国を盛り立てることに注力してきた。大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略は、強い経済を取り戻すための「三本の矢」である。三本の矢は企業の収益を改善し、雇用と所得を増やし、「経済の好循環」を実現させようとしている。弓道には正射必中という言葉がある。これは正しい射法で射られた矢は、必ず中るという意味である。しかし、三本の矢の「的」は静止して動かないものではない。逆風・突風・横風・乱風・嵐に吹かれる恐れもあるため、GPSによる軌道修正機能が求められている。
バブル経済崩壊後、日本はずっと停滞をし続け、このままでは二級国家に転落するだろうとか、失われた二十年やデフレの進行といった消極的な代名詞が日本経済に付けられてきたが、今、日本の経済再生に神風が吹き始めた。そして世界がアベノミクス(Abenomics)の動向に注目している。アベノミクスは未来に向けて日本経済を、「停滞の二十年から再生の十年へ」と、大きく転換させようとしている。目指すのは、「課題先進国」から「課題解決先進国」への変身である。アベノミクスはいつまで経っても「道半ば」であるが、安倍政権は「景気回復、この道しかない」、「この道を。力強く、前へ」を主張しつつ、「安定的な政治基盤の下で、政策を、ひたすらに実行せよ」と銘記している。
安倍首相は2015年9月24日、アベノミクスは第二ステージへと移ったことを明らかにするとともに、希望を生み出す強い経済、夢をつむぐ子育て支援、安心につながる社会保障などの新三本の矢を打ち出した。安倍政権は安心・安全、豊かで質の高い生活を実感でき、さらには地球規模の課題解決にも貢献していくという新しい国づくりを目指している。目指す社会像は国民一人ひとりに実感できる「一億総活躍社会」である。
『未来投資戦略2017―Society 5.0の実現に向けた改革―』によると、「成長戦略で明るい日本に」するために、第二ステージの課題は、「革新的技術を活かして新たな需要の創出と生産性革命をもたらすとともに、一人ひとりのニーズに合わせたサービス提供による社会的課題を解決する『Society 5.0(ソサエティ5.0)』」を実現することである。Society 5.0とは、(1)狩猟社会、(2)農耕社会、(3)工業社会、(4)情報社会に続く、人類史上5番目の新しい社会(超スマート社会)である。
「国の政策」にフリーランチはない。アベノミクスの円安・株高は有権者の心を虜にしたのに、貿易立国だった日本の2015年の貿易収支は5年連続の赤字となったが、2016年の貿易収支は6年ぶりに黒字となった。自民党の2017年版『マニフェスト』は「全力を傾注したアベノミクスの5年間の多くの指標が示す通り、わが国の経済は確実に回復しています」(p.7)とアピールしているのに、大胆な金融政策と機動的な財政政策は安い金利の国債に頼っているため、1,100兆円を超える国の借金は膨らむ一方であり、国債価格暴落の「X-day」が懸念されているとある。もしアベノミクスが本当に成功したのであるならば、なぜ2回も消費税増税(8%→10%)を延期したのか。第二次安倍内閣が発足した2012年12月から始まった今回の景気回復については、国内では緩やかに伸びているが、世界的には地盤沈下を続けている。
野党はアベノミクスの失敗を批判している。自己責任や自由競争だけでは社会は回っていかない。強い者、豊かな者をより強く豊かにする流れではダメである。希望がない、夢を持てない若者がたくさんいる。分厚い中間層は崩れ、壊れていった。少子高齢化が進み、格差が拡大して社会が分断されている。「少子高齢化が急速に進む中で、日本が成長を続ける道は何か」について、アベノミクスは人づくり革命と生産性革命の二つの大革命で挑む。
黒田東彦総裁は2013年4月4日に導入した「量的・質的金融緩和」などで、2%の物価安定の目標を2年程度での達成を目指した。日本銀行は2016年11月1日の金融政策決定会合において、2%の目標達成時期の見通しを「2017年度中」から「2018年度頃」に先送りした。当日の基本的見解の報告には、「2%程度に達する時期は見通し期間の終盤(2018 年度頃)になる可能性が高い」と記された。黒田総裁は2018年4月8日までとなる任期中の達成を事実上断念することになった。事実上、異次元金融緩和の敗北宣言に等しい。日銀は2017年7月20日の金融政策決定会合において、6回目の先送りをした。
ついに、安倍首相は2017年9月25日の記者会見で、「2020年度のプライマリーバランス黒字化目標の達成は困難となるが、安倍政権は財政再建の旗を降ろすことはない」と認め、9月28日の衆議院解散を「国難突破解散」と名付けた。国会は2018年3月16日の衆参両院の本会議で、黒田総裁を再任する人事案を可決、承認した。日銀は4月27日の金融政策決定会合において、2%の物価安定の目標達成時期の明記をやめた。安倍首相は6月5日の経済財政諮問会議で、「2025年度の国・地方を合わせたプライマリーバランス黒字化を目指します」と述べた。政策は大きく変質した。
視点を変えると、大義名分を掲げることで、良いことをやっているという錯覚をしている場合もあるため、場の「空気」に吞まれ、風に流され、サタンとの取引に誘い込まれる恐れがある。「憂患に生き、安楽に死す」という諺がある。つまり、憂いの中にあれば生き抜くことができ、安楽の中にいるとかえって死を招く。健全な危機感が必要であるが、危機を意図的に煽って党利党略のみを追求することもある。権力の私物化は国民を不幸にする。
自民党は2016年10月19日、党・政治制度改革実行本部の役員会で、現行の「1期3年、連続2期6年」の党総裁任期を延長することを決めた。安倍一強の態勢で反対論は党内全体には広がらず、むしろ容認する「空気」が大勢を占めたため、事実上、「連続3期9年」が決まった。続いて自民党は11月1日の総務会でも了承し、さらに2017年3月5日の定期党大会でも党総裁任期延長の改正案を「満場一致」で決定した。
野党第一党だった民進党の前原誠司代表は「名を捨てて実を取る」という大義名分を掲げ、9月28日の「国難突破解散」を機に希望の党との事実上の合流を大決断した。希望の党の主張によると、政権交代は「日本をリセットする」機会である。過去の延長線のままでは、日本は衰退する一方という危機感がある。日本の政治を変えるために、心を合わせて大きな目標に向かって頑張る意気込みである。10月22日の投開票の結果によると、希望の党は完敗し、自民党は大勝した。「打倒安倍政権」は野党の共通目標であるが、多くの国民は望んでいない。
自民党は2012年12月16日から衆議院と参議院の国政選挙での6連勝を果たした。第四次安倍内閣は2017年11月1日、正式に発足した。8月3日に改造した「仕事人内閣」の閣僚全員が再任された。そして2018年9月末に2期目の任期満了を迎える安倍総裁が、自民党総裁選3選に向け立候補できる環境が整うことになった。2018年9月20日の自民党総裁選で安倍首相が3選を果たした。新総裁としての任期は2021年9月末までの3年間である。安倍首相がこのまま首相を務めれば、2019年11月には戦前の桂太郎氏を抜いて、憲政史上最長の在任期間となる。安倍首相は10月2日、第四次安倍改造内閣を発足させ、今回の改造内閣について、「実務型の人材」を集結した「全員野球内閣」と名付けた。
外交・安全保障政策はアベノミクスと表裏一体である。日本国内外においては、経済再生は歓迎されるが、自衛隊に関する憲法解釈変更、憲法改正、防衛力の強化及び役割・戦略地平の拡大が懸念されている。それは、戦後の吉田ドクトリンの富国軽兵から安倍版富国強兵への転換という点にある。外交・安全保障政策を概観すると、安倍政権が取り戻さなければならないのは、民主党政権で傷ついた日米同盟への信頼である。戦前、日本は富国強兵の路線を採用したが、戦後になって日米同盟に依存した軽武装・経済重視及び平和国家へと針路を転換した。アメリカの軍事的傘下で過重な防衛費を負担することなく安全保障を確保し、経済発展に専念できたが、日本が安全保障面において世界秩序の安定に貢献しようとする意識は低かった。
アメリカは自由と民主主義を掲げて日本に手本として示してきた。戦後の世界秩序は強いアメリカが中心に組み立ててきたが、トランプ政権はアメリカ第一を謳い、お金に困っている弱国のように振る舞っている。トランプ大統領は、「アメリカを再び偉大に」「アメリカをこれからも偉大に」を掲げ、反移民、反TPP(Trans-Pacific Partnership、環太平洋パートナーシップ)、反パリ協定、公正かつ互恵的な貿易を主張し、日本・NATOなど同盟国への防衛費負担増を求める。トランプ大統領の予測不能な行動に対し、日本の戦略の大きな見直しが必要になるのは言うまでもない。
トランプ節の「日本叩き」は安倍政権に経済と外交・安全保障の課題をもたらす。経済面については、アメリカ第一のトランプノミクスは日本経済にとって逆風か。アメリカ大統領選挙では、TPP離脱など保護主義的な発言が目立ち、日本に対しても厳しい発言を繰り返していた。彼はアメリカの貿易赤字を問題視しており、日本と中国を為替操作国と批判し、日本がネブラスカ州の牛肉に38%の関税をかけるならば、われわれは日本の自動車にも38%の関税をかけると指摘した。安倍首相は米国抜きのTPP11に関する主導権を取ろうとしている。日本にとってTPPは二つの意味がある。一つは日本経済再生の起爆剤になるという期待であり、もう一つの意味は経済面での対中国戦略である。
外交・安全保障については、日本はすでにほぼ半世紀も「アメリカの忠実な同盟国」としての役割を果たしている。安倍政権は、日米同盟が日本の外交・安全保障の基軸だと主張し続ける。「アメリカは世界の警察官ではいられない」と明言し、TPP離脱を正式に署名し、パリ協定からも離脱したトランプ大統領の姿勢がアジアに力の空白地帯を生んでしまう恐れである。現在、トランプ大統領は対アジア戦略を明確化し、「力による平和」を主張し、北朝鮮の核・ミサイル開発問題を解決しようとしている。
一方で、巨龍中国は世界秩序のもう一つの構築者として、名乗りを上げて虎視眈々とアメリカの王座を狙う。習近平国家主席は自由貿易と開放の旗手としての姿勢を示すなど大国として振る舞い始めている。現在、中国は明治維新の「入欧」のように、「西進」の大戦略を掲げて、国から陸と海のルートでヨーロッパまでをつなぐ現代版シルクロードの巨大経済圏構想「一帯一路」に力を入れている。一帯一路は中国版グローバル化である。これは危機かチャンスか。中国の「台頭」から「世界の中心」へは吉か凶か。言うまでもなく中国は、経済力は大きくなったものの、アメリカとの全面戦争を望んではいない。
日本も米中の覇権争いに巻き込まれてしまう中で、新世界・新秩序を築いている中国をどう捉え、どのように付き合っていけばいいのか。19世紀の大英帝国、20世紀のアメリカに続き、21世紀は中国の世紀になるのか。それともポスト・アメリカはやはりアメリカなのか。日本の外交・安全保障政策にとって冷戦終結以来の大きな転機となりかねない。つまり、国民の生命、財産をどう守るかである。安倍首相は、日本の新たな国家像を示す『美しい国へ』(p.60)と『新しい国へ―美しい国へ 完全版』(p.64)で、「歴史を振り返ってみると、日本という国が大きな変化を遂げるのは、外国からの脅威があったときである」と書いている。
したがって、海洋国家日本の外交・安全保障上の課題について、米中新冷戦下の日本の役割、日米同盟の強化、防衛力の強化及び役割・戦略地平の拡大だけではなく、中国の経済力・外交力・軍事力・宇宙力及び海洋進出の強化、尖閣諸島(台湾名・釣魚台列嶼、中国名・釣魚島およびその付属島嶼)をめぐる東シナ海問題(中国名・東海、英語名・East China Sea)、南シナ海問題(中国名・南海、英語名・South China Sea)、北朝鮮の核・ミサイル開発問題、竹島問題(韓国名・独島)、ロシアとの北方領土問題、日本台湾交流、ASEAN諸国との関係強化、自由で開かれたインド太平洋戦略、米国抜きのTPP11など、困難な課題が山積している。これらはすべて関連し合っているため、物事の全体をとらえる必要がある。
いずれにしても、アメリカとの軍事同盟及び中国との経済連携の大きなうねりの中で、安倍政権は日本の第三次大戦略を構築・実行しており、三度目の奇跡を実現しようとしている。トランプ節の「日本叩き」、中国の「台頭」から「世界の中心」へ、北朝鮮の「新たな段階の脅威」が都合の良い外圧である。外圧によって江戸幕府が倒れ、明治政府が誕生した。明治維新と戦後復興の時と同じように、日本がその時代時代に合わせる新たな国家像に生まれ変わらざるを得ない方向へ向かいつつある。では、何が「より良い」「新しい日本」を支えるのか。
こうした大変革時代に鑑み、安倍政権は三本の矢に象徴される経済政策「アベノミクス」を提唱し、円安・株高へと導いたが、本当に「強い日本を、取り戻す」ことはできるのか。本書はこの大変革を正しく理解するために、アベノミクスだけを論じるよりも、「強い日本を、取り戻す」ための安倍政権の大戦略を縦横無尽に見極めるものである。